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陸上自衛隊日野基本射撃場で凄惨な事件が発生しました。
現状の問題点についてまとめました。
同じような事件が二度と繰り返されないことを祈ります
2023年6月14日
陸上自衛隊日野基本射撃場で自衛官候補生による銃乱射事件が発生し、男性隊員3名が死傷しました。
犯人は今年4月に入隊したばかりの18歳の自衛官候補生です。
前期教育の重要な場面であり、自衛官として必須な射撃技術を習得する大事な訓練で、何故このような痛ましい事件が起こったのかを追っていきたいと思います。
※当サイトでは乱射という表現を使っています。
辞書の意味合いとは異なりますが、正当な理由なく銃を自らの意思で他者を傷つけるために用いる=乱用⇒乱射としています。
銃撃事件はどのようにして起こったのか
事件の経緯
射撃準備線と射撃待機線
射座とは違い即抑え込むのは困難
実弾を装填している射撃指揮官から離れていた
※射撃場と部隊によって若干の差はあると思いますが、現在の射場規則では概ね同様の手順で射撃を実施していると思われます。
射撃準備線は通常射座(銃を撃つ場所)から後方に位置し、弾倉に弾を入れたり、係が射手の銃を点検するためにあります。
射手は自分の番が近づいてきたら射撃準備線に銃を持って集合し、係から点呼(本人の健康状態と銃の状態を確認するのが目的)を受け、弾薬交付所に移動し弾薬を受領、準備線に戻り弾薬を弾倉に装填、弾が入った弾倉は銃と別の箱に入れて分けておきます。
準備線集合→点呼→弾薬交付→弾倉に弾を装填→射撃待機線移動→射座移動→射撃
これが一連の流れです。全て係幹部の号令によって動くため、射手が自分の意思で行動し得るのは待機線まで。
射座にいる間は号令以外の行動をとる事は許されません。
そして今回の事件は待機線(準備線)で起きたとの事です。
【出典】仙台駐屯地業務隊(東根射場)
射座では安全係の他、射撃係(射手の後ろで射撃の進行補助)、射撃係幹部(号令を出す人)、射撃指揮官(射撃の責任者、通常乱射犯に備えて拳銃を携行)、各コーチ(射手の補助役)、採点、器材操作係等沢山の人がいます。
写真のように通常射手の隣にはコーチ、後ろには射撃係、写真ではわかりませんが左右には安全係が配置されています。
射手は射撃係幹部の号令で動くように指示されますので、下手な動きは出来ません。
動いたとしてもすぐバレて拘束される確率が高く、今回の犯人はそれを見越して待機線で犯行に及んだものと考えられます。
同様に何らかの事件が発生した際に抑止するため、射撃指揮官は拳銃を携行しますが、射撃待機線からは離れている事もあり犯人を咄嗟に撃つことは難しかったと推測されます。
準備線で準備を整え、待機線で他の隊員が一息つきながら自分の番が来るのを待っている間、コーチが床に置いていた弾倉を取って装填し銃撃したのではないでしょうか。
現状の問題点
何が問題なのか
後先を考えずに動く人を止めるのは困難
メンタルケア
射座に上がるまでは弾は渡さない
射手及び勤務員は防弾チョッキ着用(鉄板入り)
射撃係、射撃係幹部も拳銃で武装
事前教育で不審な行動をした場合正当防衛で撃つ旨を事前に叩き込む
等々色々と対策は可能ですが、そもそもの問題点として覚悟が決まってしまった人間はどのような状況であっても目的を達成しようと動くことです。
安倍元首相の銃撃事件でも、未来に何の希望もないと思い込んでしまった方が後先考えずに準備して行動した結果、最悪の結末になってしまいました。
日本より銃が身近なアメリカでは銃乱射事件が多発しており、米軍内でも同様の事件が多数発生しています。
2009年にはテキサス州の某陸軍基地で米軍の精神科医が銃を乱射し13人を殺害しました。
米軍関係者に今回の事件について話を聞いてみたところ、
突発的に撃ってくる人間を止める事はまず無理だ。
被害者を増やす前にこちらから撃って止めるのがベストだと話していました。
またSNSの悪い意味での影響が大きく、ネットの情報を鵜呑みにしてしまう傾向が強い。
射撃訓練前は一部の過激な投稿へのフィルターを実施するべきだという声もありました。
自衛隊も今後同様の方向性に舵取りが進むと思われます。
メンタルケア
銃を撃つのは人間であり、狙うのも人間である以上、隊員のメンタルケアが最優先です。
人は現状に満足していればわざわざ壊そうとはしません。
不満が積み重なって爆発してしまう前に対処する必要があります。
特に今回の件では高校を卒業して間もない若者が事件を起こしたという事もあり、今の若い方々のストレス耐性を念頭に入れた訓練の見積もりが必要になりそうです。
※ナビクマ自身も東日本大震災を始め悲惨な現場を経験しており、教育訓練でのそれなりに厳しい経験が現場で役に立ったという事を理解しています。ただ時代の変化に応じてパワハラ、セクハラへのコンプライアンスが変化するのと同様に、教育期間中の指導の在り方も変化が必要だと感じました。
参考 現役時代の新教運営体制
教育隊の裏側
訓練前の打ち合わせ
班長ミーティング
班員へのケア
以下はナビクマが現役の頃に新隊員教育隊(運営側)に在籍していた時の流れです。
課業終了後、区隊の主要メンバーで次の日の訓練について最終的な打ち合わせを実施します。
訓練の準備状況、問題点、実施場所の状況、当日の天候、各班員の健康状態等々を各担当に確認、問題がなければ指揮官に報告、指導を受けて本番に臨みます。
その後班長同士で必ず班員の様子を話し合っていました。
今日〇〇候補生が△△候補生とトラブルがあった。
◇◇候補生が不安を感じてストレスが溜まっている、早めにケアが必要だ。
特にメンタルケアは最優先で対処すべき事だったので、班長達は自分の時間を削って課業外に顔を出して話を聞いたりしていました。
当時の区隊長の方針は感謝の心を忘れるな。
最初に基幹隊員の会合で区隊長から
人間関係は相手の世界観を理解し、相手に感謝する事で信頼関係を築きやすくなる。
階級、立場、訓練内容、色々悩むことはあっても相手に対して常に感謝の意識を持って欲しい。
それは候補生に対しても同じだ。彼らは一般社会を離れ、自衛隊という外から見たら忌避する場所に勇気を持って飛び込んできた未来ある若者だ。
彼らがこれからの自衛隊の重要な戦力となるのだから、飛び込んできてくれた事に感謝して接して欲しい。
と言われた事を覚えています。
訓練や躾けで一時的に厳しく指導することはあっても、その後のケアをしっかりして常に相手に対し感謝の気持ちをもって接していました。
そんなに多数の候補生を見てきたわけではありませんが、事故数はゼロでした。