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新隊員教育隊での出来事は陸自ナビクマの勤務経験に基づき、これから自衛官を目指す人に向けて一部脚色して書いています。
少々偏見も混ざっていますがご了承ください。
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【準備は万端に】行軍訓練その1
GWも終わって訓練も最盛期に近づいてきました。
ランニング、筋トレも入隊当時の頃とは負荷が違うし、ナビクマ自身楽にこなせるようになってました。
そんなある日の朝礼で区隊長からの一言。
「これから自衛隊名物行軍訓練をやっていく。最初は10キロ。駐屯地の周りを装具を着けて歩くだけだ。慣れていないと意外ときついぞ。」
「10キロなら余裕だろうと考えているヤツも多いと思う。行軍は準備が何よりも重要だ。班長からしっかりやるべき事を聞いて準備してくれ。」
ドキっとしました。
10キロくらい何とでもなるでしょ、かなり舐めてたからです。
朝礼後班の皆と話をすると
「んー。正直10キロなら大丈夫だと思うけど間もなく梅雨だからね。。。天気が悪いとヤバそうじゃない?」
「雨もだけど、行軍って足に豆出来て、更に豆が潰れても歩くから終わった後が大変だって聞いた。。」
「それやばくね・・・。半長靴洗うの大変そうだや。」
色々と参考になりました。
その後班長達からアドバイス頂いてうちの班でも準備が始まりました。
行軍準備
厚めの靴下
履きなれた半長靴
行軍用のインソール
塩飴
飲料水
裁縫道具
ハッカ油
まず一番必須なのが行軍用の厚手の靴下です。
行軍は駐屯地のような舗装された道路を歩くこともありますが、大体は演習場内の山道を延々と歩き続けます。
長時間歩くと豆が出来ます。原因は足の裏に摩擦が生じると皮膚が炎症を起こして豆が出来るというメカニズムです。
舗装された道路だとあまり気にせず歩いても豆は出来にくいのですが、山道をイメージしてください。
ゴロゴロした石や岩。
ぬかるんだ道。
登ったり下ったりの斜面。
特に石や岩は足の重心がずれやすくなるので、弱い部分に摩擦が生じやすく豆ができやすくなります。
重心がずれても厚手の靴下でガードすることで豆を防ぎやすくなるので、まずは靴下を行軍用のを揃えてください。
半長靴は履きなれたものが一番です。
半長靴は固いので、新品だとそれだけで豆が出来やすく疲労も大きくなります。
履きなれることで足と半長靴がフィットし歩きやすくなります。
インソールも重要です。行軍はとにかく足と膝に疲労が蓄積していくので、少しでも良い物を使うと楽になります。
ナビクマも自衛隊に入るまではインソールなんてどうでもいいじゃん!と軽く考えていました。
先輩にインソールは絶対良い物にしとけよ。マジで全然違うから!と強く言われしぶしぶ購入したのですが、、、
本当に疲れ具合が違いました。
完品のインソールを使ってた時は40km歩き終わったあとは3t半に乗り込むのもきついくらい足が重かったのに、このインソールに変えてからは疲れてはいるけど、まだいける!と思うくらい足が軽く感じました。
行軍は歩き終わってからが本番です
自衛官は体が資本です。少しでも楽をするために良い物を選んでくださいね。
行軍中はかなり汗をかきます。
塩分補給と眠気防止に塩飴が効果的です。
行軍は長期戦になるので手持ちで塩飴をおススメします。
塩分補給出来れば何でも良いと思いますが、個人的に美味しかったのでチョイスしましたw
裁縫道具も準備しましょう。
豆が出来てしまった時にそのまま放置するよりも、自分で水泡部分に針で穴を開け、水を抜いた方が楽だからです。
コツとしては大き目の穴を2か所開ける事。
しっかりと水を抜いて乾燥させると豆が気にならなくなります。
ハッカ油は虫よけになるだけでなく、眠気防止に最適です。
ツーンとくる刺激臭があるので、眠くなっても覚醒します。
行軍で怖いのが歩きながら寝てしまい、崖から転落したり、沼にダイブすることです。
行軍は夕方くらいから開始して次の日の昼くらいまで歩く事が多いので、眠気との勝負もあります。
危険防止にもなるのでおススメです。
【徐々に長く】行軍訓練その2
少しずつ長くなる
最初は10キロ
20キロ、30キロと長くなる
本番は30キロ前後
部隊配属後は40キロ以上もある
最初は10キロからスタートします。
これは部隊配属後も同じで、最初から40キロを歩く事はまずありません。
自分の体に背嚢(リュックサック)約20kg、銃4kg、装具約5kg
合計30kg程度の重量を背負うことになります。
この他に無線機や医療セット等他の荷物を背負うことも。
10キロを歩く時に、背嚢の背負い方、装具の締め付け、銃の持ち方を体に馴染ませると楽になります。
20キロでは更に補備修正を行って行軍に適した体を作り上げていきます。
本番では30~40キロ歩く事になるので短い距離を歩く際に、どれだけ準備出来たかが重要になります。
【歩いた後が仕事】行軍訓練その3
行軍は移動手段
行軍後の行動が目的
体力が残っていないとアウト
疲労を貯めないことが重要
行軍はあくまで移動手段です。
車両で移動出来ない時に徒歩で移動し目的を達成します。
敵地まで徒歩で進入し、敵陣地へ突撃し占領するのが目的であれば、歩いた後に突撃する任務が残っています。
歩いたら終わりではなく、歩いた先に目標がある事を念頭に、疲労を貯めこまずに歩ききるにはどうすべきかを考えながら歩きましょう。
行軍まとめ ナビクマ達の行軍訓練
「我々は30キロ先の敵陣地に向けこれから行軍を開始する!あいにくの雨だが、敵も状況は同じだ。きつい1日になるが任務達成まで頑張って欲しい。全員での任務達成を期待する!」
区隊長の檄と共に行軍訓練が開始しました。
「おー!!」
色々揃えて準備万端!
ついに本番の行軍訓練スタートです。
迎えた本番30km
天候は一日雨
慣れない山道
豆に針で穴を開ける
湿気と汗が体力を奪う
歩きながら眠ってケガをする隊員
行軍後の突撃
本番は朝からずっと雨でした。
迷彩ポンチョを被って行軍開始。
50分で4k歩き、10分休憩のサイクルだったのですが、生暖かい雨が降り続けます。
周りを見ると大分士気が下がってました。
行軍前に班長から
「靴下重要だよー。晴れの日なら良いけど雨の日はゴアソックスも選択肢に入れてねー。」
と言われたのを思い出しました。
ゴアソックスとは、防水処置された靴下です。
値段はかなり高めですが、通気性もあって足が濡れにくいのが特徴。
【出典】陸上自衛隊
雨は小雨になったりするものの一向に止まず、登りと下りが続く山道に入りました。
行軍中は私語厳禁。
会話はほとんどせずジェスチャーで伝達します。
舗装された道ではないので、足への負担も少しずつ大きくなってきました。
休憩の合間に靴を脱いで、足の血行を整えなるべく空気に触れさせ冷却を試みます。
「足がじわ~っと痛んできたら疲れが溜まってきてるからな。早めに言えよ!」
教官からの声にOKサインで合図。
15キロくらい歩いて大休止に入りました。
通常の休憩は10分。大休止は40分です。
ずっと付き添ってくれている衛生隊の隊員が1人1人に声をかけてくれました。
「大丈夫?何かあったらすぐ呼んで!」
ホント先輩凄いなあと思いました。
大休止の際にじんわりと痛んで気になってたので靴下を脱いでみると大きな豆が出来てました。
それを見てた班長が
「あー、これはすぐ水抜きした方良いね。ナビクマ君、我慢しないで次からはすぐ言ってねー」
と、衛生隊の方を呼んでくれました。
コールドスプレーで冷やされ、アルコールで除菌後に大きな針ですぐ水抜き。
手前から指して奥側に貫通。
2分で処置完了。
「どう?これで痛みはないけど、すぐまた水溜まるから違和感あったら教えて」
その為のソーイングセットだったのか!
とても勉強になりました。
大休止後に行軍再開。
一度体が冷えると疲れが倍に感じました。
雨も止まず湿気と汗で容赦なく体力を奪われます。
何で背嚢がこんなに重いのか。
しきりに気にしてると班長が近づいてきて
「ナビクマ君、背嚢をもっと上の位置で背負おうか。」
背嚢の位置調整をしてくれました。
長距離行軍では背中に背負う背嚢はなるべく重心が高い方が楽です。
しかし密着させすぎると血流が悪くなって手足がしびれてきます。
丁度いい案配は自分の体に聞きながら見つけていくことになります。
25キロを超えて夕方。うす暗くなってきました。
その頃になると躓いたり転んだりする隊員が増えてきました。
中には大きな水たまりにドボンと突っ込む隊員も。
「寝るなー!ケガするぞ。後ろのヤツは前のヤツが寝てたら起こしてやれ!」
教官が大きな声で怒鳴ります。
が、疲労困憊で手を挙げる人もまばら。
重い荷物を背負って寝るはずないでしょ。。。と思ってましたが、人の体は正直なんだなと、この時初めて知りました。
疲れてくると眠くなる。
暗くなると眠くなる。
当たり前の事ですが、本当の意味で実感する機会となりました。
そして30キロ地点に到達。
最後に待っていたのはハイポート!
「よーし、これで最後だー!!全員目の前の丘まで登って占領しろ!!」
どこから元気が出てくるのか。
いつもなら嫌な気分になる教官の罵声が何故か頼もしく感じました。
もう体力はほとんど残っていません。
足も痛い。
身体も痛い。
とにかく眠い。
でも皆で大声で歩調を合わせ丘の上へ。
ピーっっっ!!
「状況終了!お前らよくやったっ!」
笛の音と共に行軍訓練が終わりました。
行軍後に
駐屯地に帰隊後、区隊長から
「君たちはよく頑張った。入隊から2カ月。自分にも自信がついてきた頃だと思う。行軍訓練は正直きつい。区隊長、教官、班長達も1人だと歩きたくはない。でも周りがいれば何とでもなるものだ。今回の訓練で身に着けたことを忘れないで欲しい。」
正直疲れてて眠かったけど、何故か身に沁みました。